「北斗、大丈夫か……?」
「いや、駄目かも」
朝から喉の奥に溜まってた思いが、いきなり何十倍もの重さになった、そんな気分だ。
わざとらしい大きな足音からして、今は俺よりむしろ菱井の方が腹を立てているみてぇだ。俺は怒るどころか、前進するだけで精一杯、って感じだった。
一組の教室に入ったらいつも通りにしなきゃなんねぇのにどうしても出来なかったから、クラスの連中には俺の異常が即座ににばれた。
「おはよう天宮君――って、どうしたの!?」
「いくら冬休み終わっちまったとは言え、そりゃー表情暗すぎだぞ、天宮」
「……おい緑川、流石に今だけはカメラ構えるのはやめとけよ」
何か色々訊かれたけど、どれにも答えられない、ってか耳に入ってこねぇ。
約一名、馬鹿も混じってたみてぇだけど。
合わせて無言に徹してくれてる菱井に庇われるようにして、俺は自分の机に突っ伏した。そしてさっきの南斗の態度を思い出す。
――南斗が俺の事、無視した。
あの時のような考えが読めない暗い目じゃなかった。俺とは話したくない、っつぅ明確な意思表示だって解った。
苦しい。凄ぇ、苦しい。
何でだろう、って考えて、南斗が俺を拒絶したのはこれが生まれて初めてなんだ、って事実に気付いた。
俺は何度も南斗をはね付けたけど、あいつは一度だって俺に話しかけるの、諦めようとしなかった。
もしかしたら俺は、南斗にだけは何しても許される、っていつも心のどっかで考えてたのかもしんねぇ――だからこんなに辛いんだ。当たり前のように在るって思ってたものを、いきなり取り上げられたから。
俺のこと好きだって言ったのに。お前のほうから手ぇ出してきたくせに。
『さよなら』
……え?
俺、今何を思い出した?
『北斗が嫌がるようなこと、二度としない。もう近寄らないようにするから。さっき言ったのは全部本当のことだよ。多分、中学に入る前からずっと本気だった。だから北斗、ちゃんと言わせて――「さよなら」』
あの後からついさっきまで、俺の中からごっそり抜け落ちてた記憶。
それは俺の部屋を出て行く直前、南斗が最後に言った言葉だった。
「何だよ……あいつ、最初から決めてたんじゃん……」
俺がどう答え出せばいいのか、悩んだのは全部無駄だった、っつぅ事かよ。
南斗はあの夜にもう、俺を好きでいるのはやめたんだ。
冬休み中合宿行ったまま帰ってこなかったのも、さっき俺を無視したのも、あいつの方から今度こそ、そして完全に俺達を「終わり」にするためにやったんだろう。
そんな事されたら――俺も、南斗に合わせるしかねぇじゃんか。
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