INTEGRAL INFINITY : polestars

「あのさぁ。前、先生に双子座嫌い、って言った事あったじゃん」
 俺は言いながら、割り箸で残ったスープをかき回した。
 会話の流れ的にはどうでも良い話だけど、何か無性に先生に聞いて貰いたかった。
「あれって兄貴のほうが先に死ぬだろ、弟と違ってただの人間だから。けど、その時兄貴が死ななくたって、いつか絶対置いてかれる。そんなとこが怖くて、嫌だった」
「ポルックスは自分の不死をカストルに分けることを望んだよ」
「じゃあ、もし弟がそう思わなかったら? 弟にとって兄貴にそんな価値が無かったら?」
 ぐるぐる回るスープの油を見てたから、先生がどんな顔してたかは判らない。
「北斗君。君は――」
「今のは全然関係無い話だよ、先生」
 だから内緒な、って俺が笑うと、先生は「わかった」って頷いてくれた。

 幸崎先生とはそのまま食堂で別れた。携帯を確認すると菱井から一件、新着メールが届いていた。
『何かあったら速攻で俺に電話してこいよ』
 俺は「平気だった」とだけ書いた返事を菱井に送ろうとして、直前で一言付け加えた。
『生徒会って今日は何か活動やってんの?』
 五分も経たずに返事が返ってきた。
『三年の受験が本格的になる前に三学期度の生徒総会やるから、今日からもう準備やるってさ』
 じゃあ、南斗はまだ第二校舎にいるってことか。
 俺は、迷った。
 いつになるか判んねぇ生徒会役員会議の終わりを待って、南斗を捕まえるかどうか。
 時間が不明だから、図書室とかで待機するのは無理だ。かといって生徒会室の近くだったら気付かれる。
「――やっぱ昇降口か」
 マジでこないだと逆パターンだな。我ながら何か笑えた。

 特別教室の割合が高い第二校舎は、第一と比べて教室移動してきた連中の為の下駄箱が大きい。俺はその一つ一つを確認して、南斗の靴がねぇか探した。
「おっかしいな……マジで何処だよ」
 他の生徒会役員のらしい靴は全部見つかったのに、南斗のやつだけが無い。
 もしかしなくても、南斗は俺がここで待ち伏せる可能性を考えて、自分の靴を生徒会室まで持っていったんだろう。
 南斗はウラの方から出てくのか、それとも更に裏をかいてこっちに来るのか。誰も協力者がいない現状では、どっちを採っても賭けになる。
――結局俺は、両方やめて第二校舎を出た。
 賭けに成功したとしても、ちゃんと南斗と話せるかどうか、っつぅ事には全然自信無かったし、もし俺だけ無視されて、目の前で酒谷と普通に会話されたら、って考えただけで、また凄ぇ苦しくなった。

 

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 81話に続けて学食話。大学時代の後半は都内の校舎に移ったのですが、複数の大学の校舎が入り乱れていたため、余所の大学の学食に潜入するのが当時のクラスのトレンド(死語)でした。友人らと企画して、色々な大学のカレーを食べ比べてレポートを書いたり。