INTEGRAL INFINITY : polestars

 結局、南斗とやっとまともに顔を合わせられたのは、俺がバイトから帰ってからだった。
「あら、おかえりなさい北斗」
 南斗と母さんはメシを食い終わったあと、そのまま何か話してたらしい。
「ご飯いま用意するから、手を洗ってらっしゃい」
「へーい」
 俺が洗面所に向かうと同時に南斗は席を立ちかけたけど、母さんが俺にも合宿の話聞かせてあげたら、なんて言うから、そのまま座りなおした。

 手ぇ洗ってきた俺は南斗の斜め向かいに座る。
 けど視線は上げられなくて、テーブルの上に置かれたあいつの片手の指だけが見えた。
 こういうとき俺が喋んねぇのはデフォだけど、ちょっと前までは南斗の方から話しかけてきてた。それが、今はあいつも全然喋ろうとしない。
 俺が晩メシを食いはじめると、母さんは俺が帰ってきたときと同じ位置に座った。
「南斗。ほら、お正月の話」
「さっきしたばかりじゃないか」
「北斗は聞いていないでしょう?」
「そっか」
 南斗は苦笑すると、合宿中、っつうか手伝い中にあったことを話し始めた――俺のほうを向いて、視線は絶対合わさずに。
 幸崎先生や酒谷と一緒に、どんな仕事をしたか。暇なときは何してたか。面白い客の話や、失敗談。
 南斗の話に適当に相槌を打つたび、俺の気分はどんどん沈んでいく。
 底に落ちきったところで、俺の意識が突然、昔の記憶に触れた。
 あぁ、そうだ――今の気分って、中学んとき南斗と初めて差がついた直後、あいつが楽しそうに自分のダチの話をしてんの聞いた時と全く同じなんだ。

 ずっと二人一緒だったのに、一人だけ取り残された気がして嫌だった。
 俺の知らない奴と何してたんだろう、って思うと腹が立った。そいつらに俺の居場所を取られたみたいでむかついた。
 だから――そんな気持ちになんねぇように、ガキっぽいプライドが潰れちまわないように、俺は南斗の世界に近寄らなくなった。

 ホント、何で今更こんな事思い出してんだろう、俺。っつか、最初のきっかけやそん時の気持ちにいつの間にか色んな言い訳くっつけて、自分自身の本心すら見えなくなっていた。
 仮定なんて意味無ぇけど、もし俺が最初から、素直に南斗に不満をぶつけられてたらどうなってたんだろう。
 俺達は今も「ほとんど同じ」でいられたかもしれねぇし、単純に仲が良い双子の兄弟としてずっと一緒にいられたのかもしんねぇ。
 それが俺と南斗にとって一番の幸せだったのか、っつぅとこだけは――俺には全く推理出来なかった。

 

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 ペンション滞在中は幸崎もしっかり労働要員。先生、重いもの持つとすぐに腰を痛めそうですが。力仕事は若い二人の担当ですね。三人の中で労働能率が一番良さそうなのは、何となく酒谷です。年末年始は余計な部屋など無いので全員同じ部屋に放り込まれて雑魚寝。