君と図書室でぶつかったのは全くの偶然だった。南斗君と同じ顔、違う髪の色を見て、あぁ彼が南斗君が恋する双子の兄なのか、と思うと、初対面ではないように感じたな。
君には判らなかっただろうね――君が星に興味がある、二年で地学を選択する、って言ったときの、僕の内心の驚きを。南斗君のしていることを全然知らないはずの君が、彼と同じように星が好きだと言うんだから。
文化祭の展示を君が見に来た時もそうだった。正直に言うと僕は、君の言葉に恐怖したよ。君は南斗君ではないはずなのに、北極星が一番好きだと言う。
双子座が嫌いな理由もやはり同じだ。彼はその理由を、カストルがポルックスを置いて死んでしまうから、と言っていた。不死を分け与えるのが上手くいかなかったら、もしくは兄がそれを望んでいなかったら、とつい考えてしまう、とも。
北斗君は南斗君とは違う、と言ったのは半ば僕自身に言い聞かせるためだったよ。双子でも互いに別の人間で個性も全く違うのに、君たちはあまりに「同じ」だった。
君は天文部の存在を知った以上、きっと入部したいと言ってくるだろう。しかしそうなったら南斗君はどうなる?
天文部への入部を諦めてもらえないかと言うかずっと迷っていたよ。けれど理由は何て言えばいい? 君は恐らく嘘では引き下がらないし、だからと言って本当の理由を言える筈がない。
僕は君たちそれぞれとの約束を言い訳にして、結局何もしなかった。そして――あの日が来てしまった。南斗君は彼の想いの真っ直中に君が踏み込んでくることに対して恐慌を来し、何も知らない君は天文部から排斥されたことに傷ついた。
前に屋上に君を呼んだ時、今度こそ全て話すつもりで、出来なかった。
南斗君が君に対して抱いていたのは子供の幼い恋じゃない。鏡に映る顔が自分に見えない、自由に触れることの出来る自分自身の身体が、唇も指先も何もかも北斗君のものだったら良いのにと願いながら、そう考えてしまう自分に吐き気がすると嘆く彼の重すぎる想いを、僕の口から君に伝えるわけにはいかなかった。
あの日以来、南斗君は僕に何も打ち明けなくなった代わりに日ごとに憔悴していった。
僕が彼に対して出来ることは何も無くて――彼の恋を知ったときから、彼を応援するという選択肢もあったかもしれない。けれど君たちは同じ男で、しかも血の繋がった兄弟だ。教師という立場の僕が君たちの将来を考えるなら、出来なかった。南斗君が星を追いかけ続けることで、いつか北斗君への想いを全て昇華出来れば最良の解決なんだと考えていたよ。
だから冬休み初日、僕より先に集合場所で待っていた南斗君が、君に対して取り返しのつかないことをしてしまったと僕に告白してきた時、僕自身も取るべき方法を間違えたのかもしれない、と後悔したんだ。
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