INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

「誰か文化祭実行委員に立候補する人はいませんかー?」
 ロングホームルームの際、一組の学級委員である佐々木がそう呼びかけて一組の教室内を見回したが、反応する生徒は誰もいなかった。
「本当に積極性が無いねぇ、うちのクラスは」
 隅の方に置かれた椅子に腰掛けている君島が苦笑した。彼女は学級委員や体育祭実行委員を決めた時の事を踏まえているのだろう。どちらも誰一人として自分から役を買って出る者がいなかった。
「久保っちがやりゃーいいのにな」
 菱井は、またもや席が前後した緑川に向けて小声で言った。ちなみに二学期は緑川の方が前である。
「文化祭って生徒会が主導権握ってるだろ? 山口先輩に接近するチャンスなのにな」
「ならば菱井君が彼を推薦してみたまえよ」
 緑川の提案に菱井が乗ろうとしたその時、君島が「今回もあみだで良いんじゃないの?」と言った。同意の声があちこちで上がる。担任の意を汲んだ佐々木が大きめの紙を探し始めた。
 美術部所属の生徒がB3サイズのクロッキー帳を持っていたので、一枚提供してもらい大サイズのあみだくじを作る。
「窓際の最前列と廊下側の最前列、立ってじゃんけんして。勝った方からあみだを回してね。方向は前から後ろ、後ろから前」
 菱井達の座席は教室のほぼ中央に位置していて、どちらから始まっても書く順に殆ど影響が無い。緑川からあみだの紙を受け取った時、ど真ん中の線が未だ空いていたので、菱井はそこに自分の名前を書き込んだ。

 クラス全員が名前を書き終わると、佐々木は教壇であみだくじの線を辿り始めた。面倒事は嫌いだがノリの良いメンバーが揃っているためだろう、程なくして「あみだくじの歌」の合唱が教室中に響き渡る。
 菱井のくじの番が来て、歌が一通り歌われると、佐々木はやたら嬉しそうに宣言した。
「出たよ、『アタリ』! 菱井君、文化祭実行委員お願いね」

「菱井、運が良かったな」
「橘、それ嫌みで言ってんの?」
 菱井は机に突っ伏した姿勢のまま、恨みがましい視線を悪友達に向けた。
「良くても悪くてもたった一つの当たりくじを引いちまったんだから、強運とは言えるんじゃねぇの?」
 そう言う北斗は一番端の線に名前を書いていた。南斗絡みで目立ちたくない、と日頃から言っている彼らしい。
「君島先生の発案があと一歩遅ければ、菱井君は久保田君を推薦するつもりだったのだよ」
「げっ、マジかよ。じゃあこの結果は因果応報、人を呪わば穴二つって奴だな」
 菱井は、文化祭実行委員になれば生徒会役員と急接近できたかもしれなかった、という点を久保田には絶対言わない、と心に決めた。言えば久保田は喜んで交代してくれそうなものだが、いかにも小馬鹿にした態度でにやにやと笑われては、菱井が腹を立てても仕方のないことだろう。
(いっそ俺が頑張って山口先輩と仲良くなってやろーか?)
 そう考えて、菱井は非常に重要なことに初めて気がついた。
 山口は生徒会副会長だ。
 文化祭実行委員会は生徒会が中心となって行う。だから菱井と山口との間に接点が出来る。
 同じ理屈で考えると、菱井と生徒会長である小野寺との間に接点が生じてしまうのでは無かろうか。
(うわー! せっかく今まで回避出来てたのに、ここでどんでん返し?)
 やはり自分はくじ運が無いのか、と内心嘆いたあとで、菱井は自分が自意識過剰すぎるのでは無いか、と考え直した。
 小野寺は数年の海外暮らしの間に菱井のことなどすっかり忘れているかもしれない。むしろその可能性の方が高そうだった。菱井自身、小学生の頃に比べると随分成長している。子供の頃から忘れがたい美形だった小野寺ならばともかく、悔しいかな至極平凡な容姿の菱井を一目で思い出す事など無理な話だろう。
(文化祭実行委員の任期なんてたかがしれてるし、まー、きっと心配する程のことじゃないよな)

 

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 世の中にはあみだくじ生成ソフトなんてものもあるんですね。手書きで作るあみだくじの横線には、よく斜め線とかループとか使いまくったものです。