「――わかりました。約束します」
「そう言ってくれて助かる。でも、まさか優君みたいな子が……」
「すっかり忘れてしまった方が、きっと優君の為でもあるわよ」
「約束した事は絶対に守ります。でも……――」
【Track 04 : Help Me】
「まだ手つかずなのは……各部の中間報告の集計?」
「天宮。それ、終わってるみたいなんだけど」
酒谷が、執務机に置いてあった書類を南斗に手渡した。文面を見て、南斗はそれがきちんと処理されている事を確認する。
「本当だ。俺達が部活してる間に小野寺先輩がやってくれたのかな」
「会長達は最初から幽霊部員だけど、やっぱり悪い気がするね」
二人は片付けてもらった分以上に働こう、と心に決め、他に残っている仕事に取り掛かった。
(何でこんなことになっちまってんだ?)
菱井は携帯電話の液晶画面を睨み付けていた。そこには時間指定だけ書かれた、簡潔すぎるメール文面が映し出されている。
文化祭が終わったというのに、小野寺は平然と菱井へ呼び出しをかけてくる。そして生徒会の雑用を手伝わせるのだ。
一度はもうメールを送るな、ときっぱり拒絶したのだが、ならば山口を教室まで迎えに行かせる、と小野寺に宣告されて菱井は反抗の術を失ってしまった。
「菱井。今日、放課後どうする?」
北斗に話しかけられ、菱井は我に返る。
「ちょい用事入ったから、俺はパス」
「そっか。じゃ、俺図書室行くわ」
また明日な、と言い、北斗は教室から出て行った。中間試験に向けて図書室で自習するつもりなのだ。彼がやけに張り切っている理由について、菱井は何となく察していた。
「ねぇ、訊きたいことがあるんだけど」
南斗が突然、廊下で菱井に声をかけてきたのは文化祭の代休があけた直後の事だった。
「え、俺に何か用なの?」
菱井はつい、警戒心を剥き出して顔をしかめてしまう。
「菱井君って何か部活をやっていたっけ?」
「いや、俺バリバリの帰宅部だけど」
スポーツ試合に出られる望みがはなから無く文化部にもぴんと来ない菱井は、部活動に興味が無かった。
「何だ、じゃあ北斗は菱井君に付き合って入部するわけじゃ無いんだ」
「え。北斗がどっかの部に入んの?」
菱井は驚いた。そのような話は、北斗本人から一言だって聞かされた覚えが無かったからだ。
「一体何部? ……っと、あんたが知ってたら俺に訊いてくるはずねーか」
「時間を取らせてごめん。じゃあ、これで」
菱井が何も知らなかった事に溜飲が下がったのか、南斗は満足そうな表情を浮かべながら踵を返した。それが面白くない菱井は、思わず南斗を引き止めた。
「そうだ、天宮南斗!」
そして、以前山口に邪魔された「意趣返し」を口にする。
「心配しねーでも、俺、北斗にゃ何も言わねーどくから」
南斗の表情が、瞬時に固まった。
「あいつ鈍いから気づいてねーけど、あんたってすげーわかりやすぎるから」
菱井はわざと南斗の顔を見ないまま、手を振りながら立ち去った。
結果に満足しながらも菱井の気が晴れないのは、やはり北斗に隠し事をされていた事を知ったためだろう。
(北斗、俺には心開いてくれてると思ってたのに)
その時、菱井の携帯が鳴った。
もう来るはずが無いと思っていた、小野寺からのメールだった。
菱井は我に返る。
隠し事をしたのは、恐らく菱井の方が先なのだ。そもそも、親友だからといって全てを曝け出さねばならない義務は無いだろう。
「馬鹿になったかな、俺」
友情の範疇なのは間違いない。だが世間並みのそれよりも北斗にのめり込んでいる自分を、菱井は自覚せざるを得なかった。
「北斗、お前何部に入んの?」
「ぶほっ!!」
菱井が何でもない事のように訊ねると、不意打ちを受けた北斗は飲んでいた牛乳を顎から垂らしてしまった。
「な、何でそんな事!」
「だって北斗は部活始めるんだろ?」
何故菱井が知っているのか、その理由にを考えようとしたのだろう、北斗が白状するまで少し間があった。
「天文部」
菱井が全く聞いたことの無い部だった。北斗も、文化祭のパンフレットで初めて知ったらしい。
入部の理由について菱井が訊くと、北斗は星が好きなのだと告白した――家族にも言っていない秘密で、知るのは菱井が二人目らしい。
一人目は天文部の顧問だと言う北斗の目尻は、心なしか緩んでいた。
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