INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

 菱井達は、小野寺との繋がりが発覚しないよう、彼が家を出てから暫く後に登校する事になっていた。
「北斗。マンションの前にバス停あっただろ。まずあれで学校挟んで反対側の駅にいかねーか?」
「え? それ凄ぇ遠回りじゃね?」
「会長と同じ方面の電車使ったらうちの学校の誰かに怪しまれるかもしんねーだろ。俺はともかく北斗は顔だけは天宮南斗と同じなんだから。反対方面からなら、もし噂になってあいつが聞きつけても正確なとこはバレねーよ」
 無論、それが最大の理由だが、少しでも移動による負担を減らしたい、という目論見も菱井にはあった。
 支度を終えて小野寺家を出る際、菱井は自分の携帯電話にメールが一通届いている事に気付いた。可奈子が自宅のパソコンから送信したものだ。
『お兄ちゃんの予想どおりでした。言われた通りに話したらあきらめてくれたよ』
 実は、昨日家を出る前に、菱井は自宅にかかってきた電話の全てに出てもらうよう可奈子に頼み込んだのだ。そして、もし相手が南斗だった場合、北斗は来ていない、菱井は寝ていて何も知らない、という嘘を伝えてもらう事も。
 どうやら可奈子は首尾よくやり遂げてくれたらしい。ただ、メールの最後に『だから約束のもの、ちゃんと買ってね』と釘を刺すかのように書かれていて、菱井はかなり憂鬱になった。

 兄の頼みを聞く代わりに妹が要求したのは、彼女が欲しがっている今月発売のBL小説新刊だった。

 菱井の考えたルートで二人は無事に学校最寄りの駅まで辿り着く事が出来た。駅前から学校のある方面へと向かうバス内は惣稜生の数が激増するため、使えない。菱井は痛みで歪みそうになる表情を懸命に取り繕いながら歩いた。
 正門をくぐる直前、菱井の携帯電話が鳴る。
「もしもし」
『俺だ』
「何だ、優かよ」
『うちの天宮が昇降口で待ち伏せをしている。気をつけたほうが良い』
「解った、北斗に言っとく」
「今の電話、会長?」
 通話を切った菱井は小野寺からの警告を伝え、北斗にどうするか訊いた。
「遭いたくない。今日はまだ、南斗の顔見たくねぇよ」
「お前……」
 北斗は表情を強張らせ、首を横に振る。
「わかったよ。北斗は裏門回って芸術棟から渡り廊下通って校舎に入れ。正面は俺が何とかするよ」
「菱井、お前絶対に南斗に疑われてるぞ」
 心配する北斗に対し、菱井は可奈子への依頼を説明し、後はしらを切りとおすだけである事を示した。
「頭良いだろ? 北斗、スポーツバッグだけ頼む。これ、俺が持ってるとあいつに追求されると思う」
「わかった。どうせ俺は鞄ねぇし」
「じゃあ、健闘を祈る」
「お前もな」

 裏門へと駆け出す北斗を見送って、菱井は第一校舎の昇降口へと向かった。
 小野寺の言うとおり、一組の下駄箱のところに南斗が立っている。
「おはよう、菱井君」
 南斗は、照度の低い空間の中でもそれと判る程憔悴していた。
 北斗が家を飛び出したのを知り、昨晩は必死で探したのだろう。殆ど眠っていないのかもしれない。
 最愛の人を傷つけてしまった少年を菱井は哀れに思ったが、自分は何よりもまず北斗の味方だ。
「こんなとこで何やってんの、天宮南斗」
「……君なら解っているんじゃないのか」
「そうだ、昨日ごめんなー、可奈から電話あったって聞いたよ。北斗は結局どこいたの?」
 菱井は予定通り何も知らない、というポーズを取った。緊張はしたが、それより痛みに耐える事に神経を遣っていたせいだろうか、思っていたよりずっと自然に演技が出来た。
 南斗は北斗の鞄を持ってきていた。菱井はそれを取り上げようとし、南斗にかわされる。変に捻った腰に痛みが走ったため、菱井は深追いするのを止めた。
「俺は教室行くけど、天宮南斗はギリギリまで北斗待つの?」
「当たり前だろう!」
「北斗も遅刻しねーと良いけど。じゃな」
 南斗の側から離れ、菱井が自分の額に手を当ててみると、脂汗を掻いているのが判った。

 

prev/next/Shotgun Killer/polestarsシリーズ/目次

 可奈子ちゃんの真の目的は、言うまでもなく兄に対する羞恥プレイです。構想当初はそのシーンも入れる予定でしたが、本筋と関係ないのでカット。