INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

「そっちの天宮、今日鎌仲に連行されたらしいな」
 小野寺がそんな事を言い出したのは、菱井が最後に靴下の片方をはいているときだった。普段、菱井に訊かれなければ天宮兄弟の事を話さない彼にしては、珍しい。
「あー、うん。レポートに難癖つけられたとか言ってた」
「違うな。鎌仲は、そっちの天宮が今回の期末でカンニングしたと思ったらしい」
「マジ!?」
 菱井は評判の悪い政経教師の面構えを思い出した。確かに、タイミング的にも小野寺の話の方が信憑性がずっと高い。菱井は北斗が唐突に勉強に目覚めたことを知っていたし、集中しさえすれば学力が大幅に上昇すると確信していたので、鎌仲を腹立たしく思った。北斗が本当のことを言わなかったのは、恐らくプライドに因るのだろう。
「期末の事なら、よく鎌仲はあんな早く北斗を解放したなー」
「それは、うちの天宮が間に入ったからだ。自分が勉強を見たから成績が上がったんだ、とな」
「……まー、天宮南斗がそう言ったら、流石の鎌仲も信じるよなー」
「だが、そっちの天宮は気に入らなかったらしいな」
 その場にいた酒谷が後で憤慨していた、と小野寺は言った。そして北斗は絶縁宣言とも取れる言葉を南斗に言ったらしい。
「あいつ、崩れたな」
 小野寺の言葉は、菱井を不安にさせるに十分だった。

「あ゛ーーーっ、また負けた!」
 菱井は片手で頭を掻きむしりながらゲーム機のコントローラを放り投げた。
「菱井これでケーキ無しだな」
 男だけのクリスマスパーティは、色気は全くない代わりに楽しく盛り上がっていた。今は下田が持参した新作ゲーム大会をしていたところだ。対戦で負けた方が勝者にケーキを一口よこす、という条件で。元々レースゲームが苦手な菱井だったが、勝負事になると熱くなる性格である。すぐに次の勝負を申し出るのだが、頭に血が上った状態では余計に勝てるわけはない。結局対戦に負け続け、割り勘で買ったクリスマスケーキは食べられない運命になってしまった。

 ケーキが登場したのは暗くなってからだ。どうせ関係ないからと菱井は拗ねていたが、彼に同情した北斗が菱井に一口だけ食べさせてくれた。
 皆がふざけあっている中、突然緑川が言いだした。
「そういえば天宮君。キミ、奈良女史とはどうなったんだい?」
「――はぁ!?」
 驚いたのは声を出した北斗だけではなかった。菱井も、この日の朝北斗の下駄箱にラブレターが入っていた事、そして放課後告白を受けに行った事を知っていた。しかも、相手は以前南斗に憧れていた女子生徒だ。
 結局北斗は断ったので、久保田達に騒がれないよう秘密にしていたのだが、彼女と同じ部活に所属する緑川はラブレターの存在を知っていたらしい。
 場はその話で盛り上がったのだが、周りに合わせながらも菱井は理由の判らぬ不安を感じ始めていた。

 パーティはなかなか終わる気配を見せず、やはり泊まりに持ち越されるらしい。しかし菱井には小野寺との約束があったので、ぎりぎりのところで切り上げを宣言した。同じく帰ると言い出した北斗とは、学校最寄りの駅まで一緒だった。
 電車を降りてからは、時間を確認しながら走れるところは走った。だがやはり、小野寺のマンションに着いた時刻はタイムリミットすれすれになってしまった。
「――あと何分残ってた?」
「恐らくこの会話を含めて一分だな」
 小野寺は、菱井が考えていたのよりずっとやわらかい表情で「中に入れ」と促した。

 

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 どうやら日本におけるクリスマスケーキはかの不二家が広めたらしい。不二家は明治創業で思ってた以上に歴史があってびっくりしました。