INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

「もしもし、可奈? ちょっと追加で頼みがあんだけど――北斗んちの電話番号、俺のクラスの連絡網で調べてくれ」

 北斗の携帯には何度電話を掛けても繋がらず、天宮家に直接訊いてみたところ、北斗は朝から風邪を引いて寝込んでいるらしかった。だが、それが誤魔化しではないという保証は無い。菱井が北斗の母親に、見舞いに行っても良いかと尋ねると、少し待たされたあとに許可が出た。恐らく北斗に確認を取ったのだろう。

 見舞いという名目の手前、菱井はスーパーマーケットに寄って桃缶をひとつ買ってから天宮家を訪ねた。
 チャイムを押し、名乗って用件を伝える。ドアを内側から開けてくれた女性は北斗によく似ていて、天宮兄弟の、特に南斗が笑顔を作ったときの顔立ちの甘さは母親譲りなのだろうと菱井は思った。
「いらっしゃい。わざわざお見舞いに来てくれて有り難うね」
「いえ、とんでもないです。北斗は……?」
「熱があって、食欲も無いみたい」
 意識はしっかりしているんだけど、と答えた天宮夫人に礼を言うと、菱井は案内された北斗の部屋のドアをノックした。

 北斗はパイプベッドの上で毛布を顎の辺りまで被っていたが、菱井が入って来るなり上半身を起こした。

 その首筋にはっきりと鬱血の痕が見て取れて、切り裂かれたかのような痛みが胸に奔る。

「ほれ。見舞いの定番・桃缶だぞ」
 菱井は震えそうになる声を抑えながら、北斗に見舞いの品を渡した。
「お前、そういうとこは外さねぇよな……」
 だが当の北斗は、菱井の想像よりずっと平静に見えた。菱井が昨日と同じ格好をしていることに不思議がっている。女の子とホテルに泊まったんじゃないかと言われ、菱井が慌てて否定する始末だ。
「じゃあ、何処行ってたんだよ」
 菱井は、迷った。
 小野寺のところに泊まってしたことは、女の子との外泊と大して変わらない。それが北斗に大して後ろめたい。
 だが誤魔化しきるのも困難で、結局菱井は白状した。
「スグ……じゃない、会長の家」
 菱井の答えを聞いて、北斗はやや呆れた表情になった。その視線がまるで責めているかのようで、つい菱井の口から出任せの言い訳が漏れる。
「ちょっとアルコール飲んじまって、お前から電話掛かってきた時間は爆睡してたんだよ」
「シャンメリーとシャンパンを間違えたんじゃないだろうな」
 菱井は返答に詰まった。実際はアルコールの類は一切口にしていない。けれど確かにあのときの菱井は何かに酔っていた。
「――で、昨日俺に電話掛けてきた件だけど」
 遣り場のない焦りを振り切るため、これも気が重いのだが、菱井は本来の目的を口にした。
「う」
「北斗。その、やっぱり天宮南斗に襲われたのか……?」
「はぁっ!? 俺、声に出てた!? ――うっ、ケホッ、ゲホッ!」
 驚いた拍子に北斗が激しく咳き込む。菱井はその背中を撫でてやった。
「病人は騒ぐなよ……あのさ、言いにくいんだけど――首んとこ、丸見え」
 瞬間、北斗は菱井から逃れるように布団に潜った。僅かに涙が滲んだ北斗の双眸に、胸が詰まる。
「ごめんな……危ねーかも、って予感あったのに、結局お前こんな目に遭わしちまって……具合悪い、って実はその、アレ……なんだろ?」

「――言っとくけど未遂だ、未遂」
「え? そなの?」

 北斗は怒ったような声であっさりと菱井の言葉を否定した。酷く心配していたぶん拍子抜けしてしまう。
 一報で北斗は、菱井の言葉を聞き漏らしていなかったようだ。
「なぁ。予感あった、って何の事?」

 

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 菱井、可奈子ちゃんにまた借りひとつです。双子の容姿は、たぶん両親のいいとこどりでもどちらかというと母親寄りという感じ。