INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

 菱井としてはずっと黙っているつもりだったが、行きがかり上仕方が無くなり、自分に対する南斗の態度を北斗に全て暴露した。

「北斗、言うのが辛いんだったら無理すんな。何が起きたか俺にもだいたい想像つくから」
 今朝方小野寺から聞いた話をしたとき北斗の顔色が変わったので、菱井は北斗を気遣った。だが北斗は、まだ自分で整理がついていないから、と昨晩の出来事をたどたどしく話し始めた。

「お前と別れて家に帰ったら俺の部屋に南斗がいて、奈良さんに告白されたの見てた、って言ってきて……いや、朝に奈良さんが手紙入れてたとこも見てたっつってたけど、あいつは俺が告白オーケーしたって思ってて、そんで俺が誰にも昨日の予定言わなかったから南斗は俺が彼女とデートしたって勘違いしてて、否定する前にあっちが切れて押し倒された。お前の言うとおり、あいつ笑ってたんだ。凄ぇ怖かった。だって笑顔で人のことヤるって言うんだぜ……」

 菱井は、北斗の言葉をひとことも漏らさないよう、真剣に耳を傾けた。そうする事で北斗の身体の僅かな震えが止まるよう願いながら。

「南斗がキスしてきて、服とか脱がされかけて、俺、触られておかしくなりそうで怖くて、助けて欲しくてお前とか先生とか、でも気がついたら南斗を必死で呼んでた」
「お前、天宮南斗に助けを求めたん? ――だから途中で止めたのか」
「理由、ってやっぱ、それ?」
「俺だったらたまんねーよ」
 菱井はそう呟くと表情を歪めた。いくら南斗が菱井に対してのみ冷酷であり、北斗に無体を働こうとした人間であるとは言え、そのときの心理は察するに余りある。

――何故ならば菱井にとっても、襲われている最中の北斗が襲っている南斗に助けを求め続けた、という事実がショックだったのだから。

 南斗の心境の考察を続けながらも、菱井の心中は複雑だった。
「それで、どうなった?」
「気付いたら俺の上で南斗が泣いてて……ずっと好きだった、って言われた」
「ものの見事に順序が逆だな。普通、告白が最初じゃねーの?」
 なるべく明るく言おうとしたが、上手くいっただろうか。
「南斗は無かったことにしなくていい、軽蔑して欲しい、って言って部屋出てって――それで、終わった」
「その後、お前は俺に電話掛けてきたわけ?」
「もうなんかわけわかんなくて、そういう時に最初に思い浮かんだのはお前だったよ。菱井。俺、どうしたらいい?」

 もう北斗の中では答えは出ているのではないか、と菱井は思った。北斗の心の中心には既に、いや、初めから南斗がいて、動かせない。たとえ南斗自身でも。
 だが菱井は、そのことは黙っていようと心に決めた。自分が寂しく、またやるせないからではない。やはり北斗自身が自覚しなければ無意味な感情なのだ。
 南斗の激情を知りそれに触れ、北斗は悩み抜くだろう。答えは教えられなくても、側にいる事は出来る。

――その後、更なる紆余曲折を経て、北斗と南斗は兄弟である以前に恋人同士という関係になる。それはここからは、また別の物語だ。

「サンキュー……」
 菱井に諭され、北斗は薄く笑んで礼を言った。
「お前も、何か困った事あったら今度こそ俺に言えよ。俺だってお前の親友のつもりなんだからな」
「ばーか。病人が殊勝なこと言ってんじゃねーよ……おっ、いい感じに頭皮に汗かいてんなー」
「うるせぇ。折角人が感謝の気持ちを表してるっつぅのに」
 菱井が北斗の髪を掻き回すと、北斗は前言撤回するぞ、と怒った声で呟いた。
「ははっ。ま、本当に辛くなったら遠慮無く北斗を頼るから――今は全然、平気だしさ」

「ホントか? 会長に虐められた、ってのでも良いんだぞ?」
「へっ!?」

 菱井の手が、止まった。

(俺と――俺と優のことは、別に悩みってわけじゃ)

 そしてここから、菱井と小野寺の話が始まる。

 

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 気がつけばクリスマス直前……やっとTrack 06終わりました。「polestars」の時間軸に沿ったエピソードはここまで。Track 07から(ようやく)菱井と小野寺だけの話が始まります。