ベッドに寝転がって目を閉じる・静寂のなかの音が、脳裏に小野寺の顔を浮かばせて菱井は戸惑った。
菱井は考える。
小野寺には負けたくない。そこは絶対に変わらない、揺るがない。
(惚れた方が負け、っつーのはあんま考えたくねーな)
ならば自分の中で、勝ち負けをどのように定義するか。
告白を受け入れられるか、振られるか、か。だが他人の心の在り方を勝敗の結果とするのは間違っているように菱井には思えた。アプローチも行き過ぎればストーカーに成りかねない。だいたいその類は小野寺にしてみれば鬱陶しいに違いない。
南斗の場合は、あれは北斗の側にも屈折したとは言え――それ自体南斗のせいなのだが――元々南斗に対する想いがあったから良かったのであって、南斗がしてきたことは菱井から見ればやはり、腹立たしい事だと思う。とは言え、それが菱井の心を小野寺へと向かわせた発端でもあるのだから、菱井としては複雑だ。
「……告白するか、しねーかだよな、やっぱ」
今まで勝負を避けるのは「有り」としてきたが、こればかりは逃げる事は許されない、と思う。何も言わないままずるずると今の関係を小野寺と続けるのは、やはり卑怯なのだ。
告白した上で振られるのは、元々嗜好がノーマルであろう小野寺からしてほぼ確実だろうが、その時はすっぱりと思い切ろう。
「よし!」
菱井は反動をつけてベッドから上半身を起こした。
心は決めた。ならば今は少し、思考を休めよう。
だがつい手に取った漫画が可奈子から借りたものだったため、菱井は頭を抱えてしまった。
翌日は、何事もなくいつも通りの日だった。菱井は携帯をチェックしたが、小野寺からの連絡の痕跡は無かった。午後のホームルームまでに何も無ければ、その日は逢わないという事だ。
「北斗。今日、帰りに遊ばねー?」
「悪ぃ、ちょっと無理」
北斗はばつの悪そうな顔の前で両手を合わせた。理由をはっきりと言わないのは、間違いなく南斗がらみだからだろう。
「いーよ、俺も最近付き合い悪いし?」
「ホントだよな。一体何やってんだよお前」
横から久保田が口を挟んできた。まさか抜け駆けか、と詰め寄られて苦笑いが漏れる。
「その時はボクがスクープするから楽しみにしてくれたまえ」
「みどりかわー……」
緑川の発言は、正直洒落にならないから困る。彼がたまに見せてくれる写真には、一体いつの間に撮ったんだ、と疑問を呈したくなるものが結構あるのだ。
その時、女子達の噂話が偶然耳に飛び込んできた。
「ねー、ちょっと凄いの見たんだけど! 小野寺先輩なんだけどね――」
「なになに?」
小野寺の名が出てきて菱井は、思わず振り返る。
「先輩に出来てたみたいなのよ、新しい彼女!」
(なっ……!?)
菱井の心臓がドクン、と大きく跳ねた。
周囲にいる仲間達も、校内一の有名人の噂には興味があるらしく、菱井の動揺には気付かず話の続きを待っているようだ。
「あ、私聞いたことある、会長が他校の女の子と映画館から出てきたって話!」
「多分同じ子だと思う。一緒に歩いてた子、うちの制服じゃなかったもん。って言うか中学生っぽい?」
「信じたく無かったけど……やだー、超ショック!」
(何だよそれ。俺は知らねー、聞いてねー――!)
「会長、ロリ趣味に走ったのか?」
横で誰かが揶揄するような口調で言ったが、菱井の耳には届かない。
ただ激しい動悸と連動するかのような不安が、菱井の思考の全てを支配していた。
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