放課後、小野寺は生徒会室で書類の処理をしていた。眉間に皺の寄った表情は、真剣に生徒会長としての職務に取り組んでいるように見える。
一方、ソファでは足を組んで座っている山口が、ストローの袋らしき紙片を折ったり畳んだりしていた。
「優ちゃーん」
「……」
「何よう、返事してくれたって良いじゃない」
小野寺は山口の呼び掛けを無視し、作業を続けている。
「知ってる? 今日無断欠席してた一年生が、昼休みに登校してきた途端に倒れて保健室に運ばれてったんだって」
シャープペンシルを握る小野寺の手が、止まった。
山口はソファから立ち、生徒会長用の執務机の前に立ち天板に肘を、突いた。重ねた手の甲に顎を乗せる。
「――何やってんの?」
小野寺が視線を上げる。彼の双眸を覗き込む、山口。普段の彼女からは考えられぬ、真摯な表情だ。
「さっきから、って言うか今日はずっと優ちゃん荒れてるし。良介ちゃんを学校に来れないカラダにしたの、どうせ優ちゃんなんでしょ?」
「うるさい。構うな」
「そう言われて大人しくあたしが頷くと思う? って、時間切れだわねぇ」
残念、と山口が肩を竦めると同時に、生徒会室のドアが開き、南斗と酒谷が入ってきた。
「こんにちは先輩」
「じゃあ、あたし行くわね」
山口はひらひらと手を振りながら、後輩二人とすれ違う。
「え!? 山口先輩仕事は!?」
「いい。酒谷」
山口のサボりは今に始まった事ではないが、小野寺が嫌みの一つも言わず山口を見逃したため、特に酒谷の方は不信を顔に浮かべていたが、元より掴み切れない会長と副会長だと言う認識を持っているが故か、疑問も苦情も胸の内に押し込め自分達の仕事を開始した。
山口が欠けただけで後は普段通り進行すると思われた生徒会活動は、しかし間もなく破られた。
けたたましい音を立てて開かれた、ドア。一言の断りももなく生徒会室に入ってきた生徒は全身から怒りを発散させていた。
「北斗……!?」
「南斗。酒谷連れてどっか行ってろ」
「なっ、いきなり来て何言って――」
突然の無礼に抗議しようと酒谷が立ち上がる。
「――南斗!!」
「わかった」
北斗の表情にただならぬ決意を感じたのだろう、南斗は静かに言うと酒谷に近寄りその腕を取った。
「行こう酒谷」
「え? で、でも天宮!」
「理由は後で教えてくれるのかな、北斗」
「すまねぇ、言えねぇ」
終わったら連絡すっから、と言う北斗に向けて薄く微笑むと、南斗は酒谷を引いて生徒会室から立ち去った。
その間、小野寺は微動だにせず一言も発しなかった。
部屋のドアが閉まると、北斗は小野寺の目の前へとつかつかと歩いた。
そして何も言わず、小野寺の顔面を狙って殴り掛かる。しかし北斗の拳は小野寺の掌に阻まれた。
「――何をする」
「よくもっ……菱井にあんな事……っ!」
北斗はあらん限りの力を込めて小野寺を、睨んだ。だが相手の表情が変わらないと見るや腕を引き、姿勢を正す。
「会長。あいつの貸しがどんだけ残ってっか知らねぇけど、俺が全部引き受ける。出来ることなら何でもすっから菱井を解放してやってくれ」
「それは、どういう意味だ」
「――笑うんだ」
ここまで必死で押さえていたのだろうか、北斗の頬を涙の筋が、伝う。
「あいつ、笑ってた。あんたと寝るのはギブアンドテイクだって、自分は身代わりだって言いながら、すげぇ辛そうなのにちっとも泣かねぇで笑うんだ!!」
「天宮。今何と言った?」
小野寺の問いには答えず、北斗はなおも涙声で言い募る。
「……保健室でこっそり聞いた。菱井、本気になったって言ってた。なぁ会長、俺、菱井のあんな顔もう見たくねぇんだよ。頼むよ、あいつの事何とも思ってねぇなら、これ以上残酷な目に遭わせねぇでくれよ――!」
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