INTEGRAL INFINITY : Shotgun Killer

「違う!!」
 突然強い力で抱きしめられ、驚いた菱井は嗚咽を止めた。
 生徒会長用の椅子が床に倒れている。行為の最中何度も縋った覚えのある、この腕は小野寺のものだ。
「違うんだ良介、違うんだ……っ!」
 小野寺の声は、幼い頃ですら一度も聞いた事が無い程感情的に揺れていた。
「ちがう、って、お前可奈と――俺、あいつの代わりじゃ」

「ほんとに違うわよ、お兄ちゃん!」

「!?」
 菱井は、立て続けて起きた予想外の出来事に声を失った。
 生徒会室に可奈子がいた。学校指定のコートの下から制服のスカートが覗いている。
「はぁい優ちゃん、良介ちゃん♪ いまこの場に一番必要な子、連れてきてあげたわよぅ」
「郁美……」
 小野寺の瞳が驚きに見開かれる。彼しか知らない事であるが、生徒会活動を理由なくサボったと思われた山口は、小野寺との会話の後これから起きる事を読んで可奈子を呼びに行っていたのだ。
「あのねお兄ちゃん。私が優兄と会ってたのは情報提供の為だったのよ。その報酬代わりに受験勉強ちょっと見て貰ったり映画奢って貰ったりしたけど、まさかお兄ちゃんの学校で噂になってるなんて思わなくて――」
「そうか、良介はその噂を聞いて止めると言い出したのか」
「う、噂だけじゃねーよ! 俺、お前達がメシ食ってるとこ見たんだよ!」
 げ、と可奈子が口元に掌を当てた。
「あん時の優、俺に見せた事無いぐらいやさしそーな顔で笑ってたじゃねーか。あんなん見せられちゃ可奈が一番大事だって思うしかねーだろーが!」

「確かに、可奈子は大切な存在かもな」

 小野寺の言葉に胸を突かれた菱井は、彼の腕から逃れようと身を捩った。しかし小野寺の力はより強く、緩まない。
「だが、それは俺から見れば可奈子は小姑だからだ」
「こじゅう、と?」
「小姑を粗末に扱ったら、お前に何を吹き込まれるか判ったものじゃないからな」
「そうそう、うちにいる時のお兄ちゃんが何してるか、優兄に教えられるの私だけだもんね」
 そこで菱井は或る事に、気付く。それは北斗も同じだったようで、恐る恐ると言った体で可奈子に訊ねた。
「あの……可奈子ちゃんって菱井と小野寺先輩の事知ってたん?」

「そりゃ知ってるに決まってますよー! この二人が私の原点ですもん」

「ええっ!? 原点って!?」
 それは可奈子のあの怪しい趣味についての事だろうか。しかし菱井が小野寺と関係を持つようになったのは、キスを入れても今年度の文化祭実行委員の活動時期からである。どう考えても時期が合わない。
「お前BLとか中一の時にはもう読んでたよな!?」
 混乱する菱井を見て小野寺は「まさか」と呟いた。
「良介、お前本当は憶えていなかったのか――?」
「それ、俺が大怪我した時優が俺は一生お前のもんだ、って言った事だろ? 子分的な意味で」
 あちゃあ、と口にしたのは山口だ。
「優ちゃん、これは最初から行き違っちゃってるわよぅ?」
「――みたいだな」
 小野寺は右手で顔を覆った。事態の飲み込めない菱井は小野寺と山口の顔を交互に見るばかりだ。
「優兄、ちゃんと説明し直した方が良いよ」
「あの……俺、もうここ出た方が良いっすよね? 菱井は心配だけど……」
「それは良介が決める事だ」
 小野寺に話を振られ、菱井は考える。北斗は南斗との事を全て自分に話してくれた。その信頼に応えるためにも、自分と小野寺との事を北斗に聞いて欲しいと思った。
「北斗。出来れば俺と一緒にこいつらの話聞いて欲しーんだけど……俺、まだ混乱してるし」
「わかったよ菱井」
「サンキューな、北斗」
 二人の遣り取りを聞いた可奈子が「三角関係?」と呟き、山口に肘先で突かれていた。

 

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 可奈子ちゃんの疑問は書いている自分自身がたまに(ry
 小野寺は結構真面目に「将を射んと欲すればまず馬を射よ」を実行していたことになります。そして、山口先輩。こんなところが彼女が副会長やれてる所以です。